9割のスギは必要無い
スギやヒノキの林は、花粉症だけではなく、環境破壊や、洪水・水不足の被害をも起こしていることを、説明してきました。
とはいえ、そもそもスギもヒノキも、材木を作るために植えたものです。もし、切ってしまったら、家を建てる材木が足りなくなるんじゃないか? と、心配になるかもしれません。そこで、もし「材木を100%国内自給するためには、どのくらいのスギ・ヒノキの林が必要なのか」を計算してみます。
1年間の、国内の住宅着工件数(木造住宅)は46万戸。1戸あたり25立方メートルの材木が必要とすると、家を建てるのに必要な材木は46万×25=1175万立方メートル。
材木に使える木は、原木(丸太)の3割程度です。となると、必要な原木は1175÷0.3=約4 000万立方メートルです。(ちなみに、材木に使わない部分は、パルプなどとして利用されます)
1年間に4000万立方メートルの原木(スギ・ヒノキの丸太)が必要。では一方で、今現在、日本に生えているスギ・ヒノキの量は、どのくらいあるのでしょうか。
本数で言えば、70億本と言いましたが、林野庁によれば、2017年における人工林(スギ・ヒノキ)の蓄積量は、33億m3です。1本あたり0.5立方メートルほどの木材量がある、ということです。そして、木は成長しますので、この数値はどんどん増えていきます。
4000万立方メートルの原木を1年間で供給するためには、木が育つ期間を40年とすれば、その40倍の蓄積量が必要になります。4000万×40=16億立方メートル。これは、今現在、日本に生えているスギ・ヒノキの半分です。
つまり、たとえ日本で必要な木材を、すべて国内でまかなおうとしたところで、現在の半分の面積で構わない、ということです。しかも、これは少子化での木材需要の減少や、外国材の輸入などを考えていません。最大限、必要だとしても、現在の半分の面積で十分だという話です。
さらに、たとえ材木が必要であったとしても、花粉症や、治水や、環境保護の悪影響との比較で考えないといけません。
実は、日本の林業(木材)の売り上げは、産業全体でたったの2500億円です。そして、林業による花粉症被害は1兆円です。売上(利益ではなく売上)2500億円の産業が、1兆円以上の健康被害を出しているのです。産業全体がもたらす利益と、その被害とを比較したら、そもそも、やらない方がいいじゃないか、という話にもなってしまいます。
花粉症は、このように、材木生産による公害です。そう、自然災害ではなく、現代人の体が弱ったことによる現代病でもなく、実は、いまだ日本に残された「公害」なのです。
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